大手広告代理店で営業(のちに事務部門に異動)として働いていたササガワキョウコは、45歳で仕事を辞め、実家を出て一人暮らしを始めます。
そして初めて一人暮らしをする古アパートの名が「れんげ荘」と、本書のタイトルとなっています。
この本は投資本ではなく、小説です。
なぜこのブログで取り上げたかというと、FIRE小説だという感想を見かけたからです。
FIREムーブメントが起きたのは、アメリカでは1990年代後半から2000年代初頭、日本では2018年頃と言われています(三菱UFJeスマート証券HPより)。
本書の刊行は2009年なので、FIRE小説だとしたらかなり先見の明がありそうです。
キョウコに再就職する意思はなく、銀行口座にある「八桁の残高」を毎月10万円使って生活していくつもりです。
単純計算で、(80歳−45歳)×12か月×10万円=4200万円が彼女の資産でしょうか。
これはこれですごいのですが、キョウコは投資はしていません。不動産も持っていません。
トイレ風呂共同で隙間風の入る、家賃3万円の古いアパートに住み、毎月10万円しか使えなくて経済的自立(FI)と言えるかどうかは微妙なところです……。
なので私は、FIRE小説ではなくミニマリスト小説、あるいは早期退職(ER)小説だなと感じました。
れんげ荘の住民との交流、季節を感じる暮らし、距離をおいたものの尚続く母との確執といったキョウコの新生活が描かれ、無趣味のキョウコが新たなことでも始めるのかと思いきやそういうわけでもなく。
どこへ着地するのだろうと読み進めると、最後の章でじんわりと泣きそうになってしまいました。
相変わらず事件や波乱などが起きるわけではありません。
会社にも家にも居場所がなかったキョウコが安寧の地を見つけた瞬間は、初めてれんげ荘を訪れた時ではなく、「れんげ荘に住むキョウコ」を自然に受け入れてくれる人と出会いなおした時なのかなと思いました。
この「れんげ荘物語」シリーズは第九巻まで刊行されています。
投資の話が出てこないのは少し残念ではありますが、早期退職の先輩(となるといいな……)であるキョウコの暮らしを、ゆっくり追ってみたいと思います。